子育てコラム

お手伝い

2008.04.15

わたしが年長組を小学校に送りだして、数か月後、一年生担任のベテラン教諭に出会ったとき、「なんとあそこまでよく躾けられましたね。あの年齢でもあそこまでできるんですね。」と感激し褒めてくださいました。わたしは、その次に出てくる言葉を期待して待っていたところ、「あのインパチェンスねぇ・・」と言われ、何のことだかわかりませんでした。

わたしは、園芸が好きで一時とても凝っていました。今から20年余り前、現在ではごくポピュラーになって、どこの公園でも見かけるインパチェンスという花が、初めて市場に出たところ、種を取り寄せて育ててました。まだ、十分に改良されていなかったので、わたしの住んでいる霜の降りるような地域では、冬越しは極めて困難な植物でした。でも、わたしは大事に育てていたので何としても冬を越させようと必死でした。

その花は、保育園の窓辺で夏から秋にかけて赤やピンク、オレンジや白の花を咲かせていました。半日蔭を好む花で、一日中、日にあたったりするとしおれてしまいました。わたしは、冬になっても、暖かくなった9時から一時間日光に当て、葉をぬらさないように水は植木鉢の端からそっとやり、日差しが強くなると窓辺に戻しました。それを毎日繰り返しました。そのうち、年長の子ども達が手伝おうとして、植木鉢を持ちに行ったり、水をやろうとしました。わたしは、それを断ったばかりか、「寄るな、触るな」でした。もともと夏場の花ですから、冬の枝葉はもろくてちょっと触れただけでもポロっと折れてしまいます。

そうして卒園した子ども達の一年生のクラスの窓辺にインパチェンスがあったのです。それは、わたしが分けてあげた苗を一年生の担任の先生が、自宅のある町で大事に冬越ししたものでした。

先生はおっしゃいました。「朝、そーっと持ち出し、日光に一時間当て、葉に水をかけないように植木鉢のはしから水をやり、もとの窓辺に戻すのを、毎日、日課にしてみんなでしています。保育園児でもあそこまでできるんですね。先生、よく教えられましたね。」
わたしは、「寄るな、触るな」で一切触らせませんでしたとも言えず、黙ってうなずくしかありませんでした。やりたくても世話をさせてもらえなかったその花が、小学校の窓辺にあって、子ども達は得意になって見てきたことをしたのでしょう。先生は「なんとまぁ、そこまでできるのか」と感心して下さるし、うれしかったことと思います。

子どもにとって、大人の行動はすべて興味、関心があります。それが楽しそうだったり、珍しいことであったり、大事なことに見えたりすると、「自分もやってみたい」という気持ちになります。また、大変そうだったり、困っているようだと「助けてあげたい」と役に立ちたいという気持ちになります。お手伝いの心は、こうして大人との密接な人間関係の中で生まれてきます。

保育園でも2歳の子どもが、食前のテーブル拭きを、水道で濡らしたビチョビチョのふきんで拭きにきてくれたりして、たぶん家庭だったらおかあさんの悲鳴が上がっているようなことも日常的にあります。そうですよね、しぼってないんですから、服も靴下も濡れてる、ここまで来る間の床はポトポト、テーブルの上の水たまり・・・。食事の前に一仕事増えますよね。次の食事前には、しぼったふきんを渡して、「拭いてね」とお願いしてみましょう。とびきりの笑顔が見られることでしょう。そして「ありがとう」「うれしかった」の一言が、自分が認められたことの証しとして、自信につながっていきます。