子育てコラム

子どもが大人を見る目

2008.04.15

給食の時間のときのことでした。食堂に子ども達が6人ずつ座って食べていました。わたしは、欠席の子どもの席で食べることにしていました。その日のテーブルでは、いつもいちばん食べるのが遅くなるK子ちゃん(5歳)がいました。わたしは、K子ちゃんが食べ終わるまで一緒にいました。

「K子ちゃんのおかあさんって、きれいでかわいくていいわね」と話しかけました。K子ちゃんの家は、両親と兄の4人家族で、どこから見ても健全な家庭環境で、特におかあさんは、美人でしかもとてもやさしく話される人でした。K子ちゃんは、わたしが話したとたんに「でも、おかあさん、おにいちゃんしばくで」と言いました。

K子ちゃんも、おかあさんに似て可愛くて、クラスの男の子の「お嫁さんにしたい女の子ナンバーワン」でした。わたしが「しばくって?」と聞きなおすと、「おにいちゃんな、宿題せんかったりしたらな・・・」と得意げに話し出したのですが、急にハッと気づいたように話を止めて、下を向いてしまいました。その顔には明らかに困惑の表情が見えました。「その話、秘密のことだったのね。先生、おかあさんにも誰にも絶対言わないね」と言うと、K子ちゃんはとてもうれしそうにうなずきました。

その日の夕方、おかあさんが迎えに来られた時、K子ちゃんは、不安げな様子でしたので、「わたしね、今日、K子ちゃんと秘密の話をしたんです」と言いました。おかあさんは、「え、先生、何なに」とにこにこ笑いながら何べんも聞きましたが、わたしとK子ちゃんは絶対に口を割りませんでした。

次の日の朝、おかあさんが「先生、K子、なに言ったんですか。いくら聞いても教えてくれないんです」と、会うなり聞いてこられました。「それは、秘密、ね」とK子ちゃんに言うと、にこっと笑っておかあさんを見上げました。おかあさんも笑いながら仕事に行かれました。それから先、そのことに触れることはありませんでした。K子ちゃんも、もう高学年になったかと思いますが、そんなこと忘れてしまっているかもしれませんね。

わたしは、こういうことがある度に、子どもというものが、自分と周囲の人との人間関係に非常に敏感で、自分や自分の家族が置かれている状況を客観的によく理解していることを思い知らされるのでした。

K子ちゃんは、お兄ちゃんがおかあさんに「しばかれている」様子をどんな気持ちでいつも見ていたのでしょうか。その「しばき」と外で見せるおかあさんとのギャップをどんな風に受け止めていたのでしょうね。そのギャップをしっかり見つめているからこそ、K子ちゃんなりにこれは世間に知られてはいけないおかあさんの「秘密」と思っていたのでしょう。

子育て奮闘中のどこの家庭にもある「反抗する子」「しばく(起こる)母」という親子の真剣なぶつかりあい、子どもがどんな気持ちで大人を客観評価しているか、ときどきちょっと冷静に考えてみてはいかがでしょうか。
ちなみにK子ちゃんもお兄ちゃんも文句なく今も健全に育っています。

この話、「秘密」だったんですが、もうそろそろ時効だと思いますので・・・・。